「運び屋」
「運び屋」
これは最高におもしろい。
クリント・イーストウッドの作品にハズレはない。
90近くになってもますます監督の腕が冴える。
年寄りをみじめっぽくなく、上手く描くのは惚れ惚れする。
歳をとったことをなげくなかれだ。
邦題の「運び屋」というのは何か違和感があったが、まさしくそうなので仕方ない。
原題は「THE MULE」
これってラバのことらしい。
総じて荷運びとかいう意味もあり、俗的に愚かな人とか頑固者という。
まさにこの物語の主人公アール(クリント・イーストウッド)そのものだ。
この話は実際にあった事件らしく、
第二次世界大戦の退役軍人で園芸家でも知られたレオという男の実話。
麻薬取締局DEAはメキシコからアメリカの大都市へ大量のコカインが運びこまれていることを知り、
捜査官は必死の捜査の末に、一人の”運び屋”の存在をつかむ。
2011年についに犯人を逮捕する、
それは、レオ・シャープという87歳の逮捕歴もない普通の爺さんだった。
映画のベースになったのは2014年6月に「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」に
掲載された「シナロア・カルテルの90歳の運び屋」という1本の記事。
イーストウッドは、この記事を目にし映画化権をとり、「グラン・トリノ」の
脚本家ニック・シェンクが脚本化、麻薬捜査をめぐるサスペンスフルで極上のドラマに仕上げた。
こうなると、今の時代イーストウッドしかその人物を演じられる人はいない。
08年の「グラントリノ」以来の監督主演となったわけだ。
「グラントリノ」でもアジア系の移民家族を描いていたが
今回もメキシコ系の若者をバックに描く。
途中、黒人がパンクした車で困っているところに立ち寄り
「ニガー」と発すると、黒人は「今はブラックだ」という。
でもアールは差別主義者ではなく、大昔の言い方をしたまでで接し方は優しい。
それが麻薬カルテルのものたちともフランクに接するため、相手も警戒心を持たない。
こういう長年の経験が人間を形成するんだなと思わせる。
思わずアールの調子に乗ってしまう、麻薬組織の下っ端がおもしろい。
職務質問になったときも、上手くユーモアでかわしていくアールに驚く。
監視しているはずが思わず一緒に歌ったり
モーテルでのコールガールとの楽しみも呆れて見てる。
「なんて爺さんなんだ・・」という表情がいいね。
歳を重ねるのは悪くないものだと思わせてくれる。
小作品なのに、共演者陣がすごすぎる。
「アメリカンスナイパー」で主演し、「アリー」で監督にもなったブラッドリー・クーパーも出てる。
「アリー」はイーストウッドの演出方法が垣間見られたし
なんだかイーストウッドの弟子のような気もしてくる。
優秀な麻薬捜査官を演じ、ダイナーでの気さくな会話と緊張感のシーンは
「用心棒」の三船と仲代達矢のような雰囲気だった。
そのブラッドリー・クーパーの相棒がマイケル・ペーニャで、
こういうサブキャラにぴったりな俳優だ。
出番は少ないが優秀な相棒になっっている。
そして上司にはローレンス・フイッシュバーン。
この人途中から出てくるが、その存在感で目立つなあ。
麻薬カルテルのボスにはアンディ・ガルシア、もうこの人しかいないというおなじみ悪役。
アールの奥さんはダイアン・ウイーストで、娘役は実の娘のアリソン・イーストウッド。
不仲な感じが実娘ならではの演技で出てる。
その娘でアールの孫娘にはタイッサ・ファミーガ、けして美人ではないが存在感あり。
フェラファミーガの妹らしいが、随分歳が離れているね。
いい配役で豪華な作品になっている。
あらすじネタバレ
アール・ストーンは園芸を生業としていた。
たった1日しか咲かない、デイリリーという珍種のユリの栽培を主にしており、
メキシコ人のスタッフと仲良く仕事に精を出していた。
品評会では賞をもらい、気さくに接し、ジョークで場を和ませたり、
その後の打ち上げではバーにいる全員に酒をおごるほどの気前の良さ。
ただし、仕事に打ち込んでばかりで、家族のことは二の次だった。
外面が良くてウチでは頑固者、というこういう男は多いものだ。
妻とは別居しているようで、別々に暮らしている。
その日は娘の結婚式。
これまでいろいろな行事や記念日、出産にも顔を出してこなかったアールは、
この日もすっぽかしてパーテイに出ていた。
これにはさすがに我慢の限界とあって、娘は父親と金輪際口を利かないと思う。
そして何年か後の現在。
89歳になったアール。
トラックで運転してデイリリーを届け、アメリカ41州も周ったアールだったが
インターネットの普及によって事業は悪化。
ついに園芸場も自宅も差し押さえという状況にまで追い込まれていた。
メキシコ人の社員も解雇することになり、工場をたたむ。
その日は、唯一の理解者である孫娘ジニーの結婚パーティーだった。
ふらりと顔を出すのだが、妻と娘に出会い、険悪なムードになる。
ここにはいられないと、フォードのボロトラックで帰ろうとした時
メキシコ系の青年が声を掛ける。
荷台に乗った家財道具を見て、アールに仕事も居場所もないと思い、
彼が無事故無違反であること、
長距離での移動はお手の物だということを知る。
「よかったら、仕事をしてみないか?」
「言われた荷物を運ぶだけの簡単な仕事さ」
訝しく思ったが、渡されたメモの住所へいくと、そこはタイヤ屋だった。
ガレージの中に入ると、出てきたのは怪しいメキシコ人3人。
マシンガンを持っている男もいる。
朝鮮戦争の退役軍人であるアールは、そんなものにビビることはない。
軍人らしい勇ましい心と、ジョークで場を和ますと
言われた物を運ぶ仕事を引き受ける。
指定のホテルに荷物を届けるだけ。
戻ればダッシュボードに金が入ってると言われる。
本当に、大金が入っていた。
こんな簡単なことで大金が稼げる。
1回のつもりだったが、2度3度になっていく。
一度、荷物を開けたところ、麻薬だったので驚く。
そこに運悪くパトロール警官がやってきた。
それは麻薬監視の警官で、麻薬犬までいる。
きついワセリンを塗って犬の鼻を麻痺させて、危機を乗り切る。
アールは稼いだ金で黒い新車リンカーンを購入。
孫娘の学校の学費に充てたり、家を買い戻したり、
退役軍人たちが集うバーの改装資金2万ドルを出したりする。
もちろん周りの人はアールを讃える。
まんざらでもないアール。
こんな張り合いが出て、さらに運び屋の仕事をする。
老人だから周りに怪しまれないのも幸いし、順調に仕事をこなしていく。
怪しいメキシコ人たちとも親しくなって、スマホの捜査も親切に教えてくれる。
しかし、マイペースなアールは時間にルーズ。
鼻歌交じりでドライブがてらにブツを運ぶが、途中で寄り道もする。
時間を守らないことに怒る麻薬組織のボス、レイトンは偵察と尾行をつけろと指示する。
その役目を仰せつかった下っ端サルとリコ。
今回からは俺らがちゃんと尾行して見張っているからな、と
銃を突きつけ脅すが、退役軍人のアールには通じない。
車内に盗聴器をつけ尾行しながら盗み聞きするリコたちだったが
アールの鼻歌につられて一緒に歌いだす。
さらには世界一うまいポークサンドを一緒に食う。
そんなとき、白人警官がリコたちを職務質問してきた。
思わず拳銃に手をかけるリコ、
警官はメキシコ人というだけで怪しむが、アールが機転を利かせ追い払う。
これを機にリコの中でアールに対する気持ちが少し変化してくる。
モーテルで一泊することになるが、アールは二人のコールガールを呼ぶ始末。
これを監視していたリコも驚きの表情。
「なんだあの爺さんは・・・」
いい働きぶりに、レイトンが家に招きたいといい、アールはメキシコに行く。
ここでもメキシコの陽気な音楽に乗って美女と踊り、ベッドでは二人の美女を相手にする。
そして、リコに「組織から抜けろ」と親身に忠告する。
その頃、警察ではDEAの優秀な捜査官コリン・ベイツが探りを入れていた。
メキシコ系の男ルイスを脅し、スパイをさせて情報を得ていた。
そのなかでタタという男が、大量の物を運んでいるのを知る。
それも黒い車で動いていることもキャッチする。
ハイウエイを走る車を調べるベイツたち。
怪しいメキシコ人を取り押さえるが、全くの無実だった。
彼は極端に警察を恐れていた。
いまでもメキシコ人や黒人を問答無用に殺す白人警官が多いことを知っての恐れだった。
そして,とあるモーテルで タタが宿泊するとの情報を得る。
ベイツらは泊まり込んで、怪しい男を捕まえる。
しかし大量のブツはなかった。
翌朝、ベイツとアールはモーテルのダイナーで顔を合わせる。
記念日を忘れたというベイツに
アールは「家族を大切にしろ」それをしなかった自分は反省をしているという。
「あんたみたいな大人と話す機会があればよかったよ」
店を出るとき、ベイツに呼び止められるアール。
ぎくりとするが、コーヒーポットを忘れていたのだった。
DEAは麻薬組織を摘発するものの、大物は出てこない。
なかなか組織の運び屋が見つからないまま1ヶ月過ぎようとしていた頃
捜査の打ち切りが検討されていた。
そんなとき、あと1週間捜査させてくれと、ベイツが署長に願い出る。
やがて一台の車が捜査線上に浮かぶ。
アールはいつものようにブツを運んでいると、孫ジニーからの電話が入る。
「おばあちゃんが入院してるの」
しかしアールは仕事で行けないという。
ついには孫からも愛想を突かれる。
ようやく自宅に戻ると、妻メアリーはベッドだった。
もう長くはなさそうで、ようやく妻と真摯な話ができたのだった。
そして息をひきとるメアリー。
メキシコではカルテルのボス、レイトンが部下に殺され、新しい組織になっていた。
そのボスは運び屋の時間も厳守させるという。
そんなアールは葬儀のため、組織の連絡を無視していた。
それを見つかって、アールは脅される。
顔に傷を負って、物を運ぶアール。
その車を発見したベイツ。
ついにアールが捕まる。
「あんただったのか?」
「ああ」
アールは裁判で、自分は有罪だと認める。
「会いに行くわ」
ようやく娘とも和解ができた。
刑務所で花壇を手入れするアールがいた。
監督:クリント・イーストウッド
アール・ストーン (クリント・イーストウッド )
コリン・ベイツ (ブラッドリー・クーパー)
部長(ローレンス・フィッシュバーン)
トレビーノ(マイケル・ペーニャ)
メアリー ・ストーン(ダイアン・ウイースト)
レイトン (アンディ・ガルシア)
アイリス (アリソン・イーストウッド)
ジニー(タイッサ・ファミーガ)
リコ(ヴィクター・ザック)
ルイス(ユージン・コルデロ)


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